十五少年漂流記 

北砂5丁目
残菊

2007年、父が亡くなった次の月のこと小学校の担任だったK先生が交通事故で急逝したことを知らされた。K先生は本来の先生が産休に入ったので来た代用教員だった。当時20歳そこそこだったのではないか。フランクで格式張らない兄貴のようなK先生はたちまち我々の心を捉えた。美術や写真が得意な先生の指導を得て我々の絵はめきめき上達した。いつもカメラを携え我々を撮ってくれたが、集合写真も我々を斜めに並べて撮るように既成概念に囚われない自由な性格の人だったのである。しかしそういう先生の振舞は学校当局には許されざる問題に見えたのだろう。楽園はつかの間にして終わった。次の年我々のクラスには有能かもしれないが歳のいった凡庸な教師が配属された。なにより美術に関心も興味もない人だったのが致命的であった。

そのK先生があるとき「お前のようにチャカシなやつはこの本でも読みなさい」と言って貸してくれたのが、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』であった。チャカシとはおっちょこちょいで短慮軽薄な性格を指す南部弁である。先生は私に『十五少年漂流記』の少年のように苦境にあっても冷静な判断と団結で乗り切る人間に成長してもらいたかったのだろうが、結果は逆であった。私はヴェルヌの創りあげたSFが正しい小説であると思い込み、毆外だの漱石だのトルストイだのドストエフスキーなどは読む価値なしとして排除したのである。かといって当時はSFもそんなにないし、ヴェルヌの作品の熱心な読者でもなく、結局文芸作品はほとんど読まずに成長してしまったのである。ただ、K先生の楽園から追放されたルサンチマンと、先生が教えてくれたSFの描くユートピア願望が私の人格をつくった(歪めた?)2大要素であることは間違いない。久しぶりに『十五少年漂流記』が読みたくなった。
    

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コメント:

懐かしいですね

私も何回も読みました。あれが私の小説開眼だったかもしれません。

  • [2012/01/21 00:30]
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  • メタボの白クマ
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白クマ様に一票(笑)

懐かしい…と申すより、永らく忘れていたような気がします。
ただ子どもの頃は、『八十日間世界一周』のほうが好きでしたね(笑)。
今読み返せば、あちこち問題だらけの話と思いますが(苦笑)。

Re: 懐かしいですね

ヴェルヌ以外では『巌窟王』の脱獄場面が怖かった。

Re: 白クマ様に一票(笑)

『八十日間世界一周』はどうも好きになれない。うわついた感じで。この頃は原住民を「土人」と呼んでましたね。

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