蛇崩2 

蛾

前にも書いたように、以前は蛇崩に住んでいた。蛇崩は交差点の名前で所番地は上目黒五丁目。すぐ後ろは世田谷区である。蛇崩へ下りる緩い坂は半兵衛坂という。最寄り駅は東横線の祐天寺だが、15分弱かかるうえ坂ばかりなのには閉口した。急行の停まる中目黒までは20分ほどかかった。祐天寺から蛇崩へ行く途中、五本木という高級住宅街を通るのだが、そのどこかにゾルゲ事件に斃れた尾崎秀実の家があったと聞いた。

そこへ引っ越した当初の話である。夜遅く祐天寺駅に降りたが、勝手を知らない街でどっちへ行けばいいか皆目見当がつかない。まだコンビニなどもない時代だ。表通りの大きな店は皆閉っている。そこで路地の奥の灯りがついている店で聞こうと思った。何の店か知らない、いやもう店ではないようだが、中で人の気配がするので近づいたのだ。戸を開けると3人の男が談笑中であった。私が「すみません。上目黒五丁目へ行きたいんですが」と言うと、1人が「上目黒は確か四丁目まで。五丁目はないよ」と断言する。「いや、ありますよ……現に私が住んでるんです」と言うと、「私が住んでるって?」とバカにしたように言い返し、3人でワハハハハと笑った。気分が悪くて私はすぐそこを出た。その後どうやってアパートへ帰り着いたかは記憶にない。後でくだんのしもた屋を探してみたが、どうしても見つけられなかった。

東京といえどもこの辺りは100年くらい前までは里山だった。狸や狐や河童の生活の場だったのだ。彼らは決して滅びたわけではなかった。夜になるとこうやって人間に姿を変え、とっぽい田舎者をからかい楽しんでいたのかもしれない。コンビニの灯りが24時間点きっぱなしの現代では、もう彼らの出番はなさそうに見えるが果してそうだろうか。
     

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コメント:

そのお三方

狐狸妖怪かはたまた酔客か定かではありませんが、生身の人間ではないほうが幸いかもしれませんね。
年齢を重ねてまいりますと、妖怪よりも人間のほうがよっぽど恐ろしく感じられるような…苦笑。

Re: そのお三方

まったくです。そういう三毛猫の子猫さんも夜な夜な……。

怖ろしいのは

本籍は人間界、姿形も人間、でも本性は妖怪というものがもっとも怖ろしいと思います。本籍が狐・狸の場合は「やられた」と多少の後悔で済みますね。田舎者をからかったのでは決してなく、都会化された場所に自らの居場所がなくて人間にちょっかいを出したのではないでしょうか。
まだまだ出てくると思いますが‥。

  • [2011/10/28 20:34]
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  • メタボの白クマ
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Re: 怖ろしいのは

からかいでもちょっかいでも、「やられた」と思うくらいがちょうどいいでしょうね。またやられたいものです。

妖怪

国会の内外に蠢く魑魅魍魎には「やられた!」と思わせてくれるほんのりしたいたずらはない。昔の妖怪の方がよっぽど人間らしさがあったんじゃないかね。

Re: 妖怪

鶴田浩二の唄のセリフを思い出しますね。もっとも鶴田浩二にしてからが、特攻隊出身という経歴も怪しいのだそうですから、やってられません。

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